コラム

JVA受賞者レポート (バックナンバー)

2008年度 起業教育部門 創業・ベンチャー国民フォーラム会長表彰

大阪商業大学
准教授 酒井 理 氏(さかい おさむ)


〒577-8505 大阪府東大阪市御厨栄町4-1-10
Tel:06-6781-0381 設立:1928年(旧:大阪城東商業学校)

社会に役立つ人物をいかに輩出するかが社会の要請であり、
教育機関の使命だと思います。

起業教育とはどういうものか、概要をご説明下さい。

 起業教育という言葉から直感的にイメージするのは、何か企業を起こして会社を運営するための知識を与える教育ということになるのかもしれません。しかし、創業するために必要なスキルを教え、卒業後起業できるように学生を教育することは、大学レベルでは極めて難しいことです。我々が考える起業教育とはもっと幅広いもので、"起業家教育"に限ったものではありません。起業というのは決して"会社を起こす"という限定的なものではなく、いろいろな形で社会を変える力であり、我々が行っていることはそれを教育することです。具体的には、"社会にある問題をいかに解決していくか"という方策、考え方を教育していくということなのです。従ってかなり幅広く、社会に出たらどんな時にも役立ち、必然的にリーダーシップを取り、社会で何かを起こすことが出来る人物を教育するということです。

 本学の建学の理念として、"世に役立つ人物の養成"を大学教育の軸に据えています。

"世に役立つ人物"とは、世の中を変えていく或いは変えようという強い意識を持った人物であり、会社を起こすことだけが役立つというわけではなく、例えばNPOで活動しても公務員になったとしても社会を変えていく仕事はできるわけです。つまり、そのマインドと方策を教育していくということです。これは普遍的な考え方なので、大学だけではなく、現在高校に広げるためのスタンスとして起業教育研究会というのを立ち上げて一生懸命やっており、更に中学校や小学校にも広げられると考えています。

高校への広げ方について、具体的な方法等お聞かせ下さい。

 例えば、"ビジネスアイディア甲子園"というのを毎年1回行っており、今年で7年目になります。高校生のコンテストは全国的にも広く開催されており、例えばこの近くだと帝塚山大学などでもやり始めていますが、全国で一番始めに手をつけたのは本学です。高校生の段階から考える力をつけるために、例えば教育のプログラムの中でやるなら高校の先生が授業でやればいいことですし、実際にやる気のある高校では実施されていますが、問題はそれを発表する場、広く知らしめる機会が数少ないことです。そういう場ができれば各高校の先生方に一つの目標が出来るし、生徒に対しても何かをやらせるための一つのきっかけになります。我々が直接高校生を教育することはできませんが、そういう場をつくることは可能だということで、起業教育全般をサポートする意味から"ビジネスアイディア甲子園"を設けました。これをやったから熱が高まっているということではなく、これまで躊躇されていた方に「ちょっと取り組んでみようか」という気を起こさせるということ。それが起業教育全般として底上げになっているだろうし、非常に重要なことだと位置づけています。


 "ビジネスアイディア甲子園"に参加した高校の卒業生は、当然本学にも入ってきていますが、本学の大宗を占めるような数ではありません。従って本学で行っている起業教育のいろいろな取り組みに対して、ほとんどの学生がゼロからのスタートです。また、ビジネスアイディアを出すまでの指導案、ワークシートを使って学生に考えさせアイディアを出させるまでの材料として、"高校生のための起業教育ワークブック"というものを作って初めて取り組まれる先生方に提供しています。ですから、高校の先生方にどれだけ一生懸命やっていただけるかが、まず第一ということになります。ただ、我々はビジネスアイディア甲子園だけで、起業教育そのものの水準が上がるとは考えていませんで、これは一つのきっかけということです。

ビジネスアイディア甲子園のもう少し詳しい内容と、現在までの成果についてお聞かせ下さい。

 昨年の応募数は4千点を超え、学校単位で数えると114校でした。内容的に見ても、高校の授業で取り組まれているケースが非常に多く、良く練られ、しっかり考えられ、裏付けもしっかりされているものがたくさんあり、感心しました。
 成果についてですが、応募される段階では未発表の作品を前提にしていますが、すでに実績を持った上で出品してこられるケースもあります。例えば、すでに商品化されているフグの骨を使ったお菓子を、若干変えて出品されている高校もありました。全国規模でやっていますから、すでに発表された作品を出してこられる所もありますが、まれです。甲子園で初めて出品され、それが実際に実現しているケースはなかなかありません。けれども、高校生レベルで商品化できるアイディアを考えたとしたら、それこそびっくりするほど素晴らしいことなので、商品化される作品が少ないことをあまり否定的には捉えていません。社会のこと、マーケティングのこと、こんな物があったら生活がすごく豊かになる等、現実をきちんと見据え、論理的に考えることを、多くの人が積極的に取り組んでいけば良いのだろうと考えています。応募されたアイディアに対して、論理性、現実性、ユニークさで評価しますが、起業教育の本質を重視します。

起業教育というのは一般教養授業とは別の特別授業かと思いますが、生徒の方の反応や実績等をお聞かせ下さい。

 起業教育を意識した授業は、ビジネスアイディア等企画物も一環としてやりますが、大学での特徴付けは実践教育です。フィールドの中で実際に企画をさせ、自分たちで社会というものに触れ合い、問題を見つけて解決する。それが本学の起業教育の特殊な部分です。それに対する学生の反応は、今のところ極めて良いです。それは、学ぶというスタイルがこれまでの講義という形と違うからでしょう。
つまり、教えられるのではなく、自分で感じ、自分で気付く、そういう環境を作るということです。

 一般論になりますが、人というものは、机の前に座って聞いた人の話は半分覚えていれば良い方で、 なにか作業をした場合はもう少し覚えていると言われています。でも、実際に自分で考え、苦労しながらやった経験は、強烈に記憶に残るそうです。このことを考えると、本学での起業教育のスタイルは、学生たちにとって非常に得るものがあり、成長させる効果は出ていると考えています。

高校生を対象にした教育で、先生方の反応、今後への期待などありましたらお聞かせ下さい。

 高校の先生方の熱意というのは極めて高いと言えると思います。普通の一般教科と違って、起業教育、例えば何かを企画したりアクティビティをしたりすることはそれぞれの高校ではしていても、他校と情報交換する機会はあまり無いようです。でも、元々やる気も熱意のある先生方ですから、これまでのやり方で良いのか、別の起業教育の方法はないのかと新しい方向をさぐりながら進めており、他との情報交換の機会があればと望んでいます。そうした先生方を一堂に集めて情報を交換出来る機会を作ることは極めて貴重であり、そうした場所には自腹を切ってでも来る人は多いですし、起業教育研究会の存在は、高校の先生方にとって非常に大事な場になっており、評価も上々です。

研究会は年間を通して定期的に行っているのですか? また、内容の組み立てなどは大学側でされるのですか?

 昨年までは年に2回研究会を行っていましたが、今年からは年1回にして、代わりに情報誌を発行する予定です。情報誌の内容は、いろいろな取り組みへの指導案や取り組みの紹介、年間を通してのプログラム、「こういう形で授業をしていればこういう成果が出ます」といった紹介記事等を考えています。研究会についても、基本的には高校の先生方の起業教育をサポートするというスタンスであたっています。大学の教員が高校のプログラムを作ることは非常に難しいですから。また、大学での取り組み方の紹介等は、各研究会の時に高校の先生方を対象に実際にワークショップという形で行っています。今、高校の先生方が何を求め何が必要なのかについて、我々と一緒に議論していく仕組みです。高校側のニーズを取り入れながら我々がサポートして研究会を運営するという形です。
 また、起業教育研究会とは別に日本商業教育学会というのがありまして、高等学校の先生方も大勢参加されています。実は、今回の受賞はこの学会の関西部会の推薦によるものなんです。この学会が、簿記や会計など取り扱い分野が非常に広いのに対し、起業教育研究会では起業教育の分野にシフトしており、商品開発の話やベンチャーの問題などに完全に焦点を絞った勉強会は他にないという点でも注目されているわけです。

全国にある商業大学の中で、貴校が起業教育に力を注がれる要因はなんでしょうか?

 端的に言えば特徴づけでしょうか。それと、本学の卒業生に中小企業の社長がすごく多いこともあります。中小企業の町でもあることから、起業という一つのキーワードで特色が出せると考えました。それと、前にも述べた"世に役立つ人物の養成"という建学の理念を体現するためには、起業教育ということになるわけです。
 従って、直接接するのが地域の人たちということから、地域の反応もすこぶる良好です。市役所も然りですが、大阪府の中でも、産学連携の成功例として頻繁に取り上げられ、本学はあらゆる面で高い評価をいただいています。起業教育として拡がりを持っていくため、今、トライアルとして地域活性化のプロジェクトをやっていますが、これに関して東大阪市役所から継続的に援助を頂いており、社会的認知も高まり、後押しや評価も受けています。

大学に入学されてからの学生像について、一般大学の場合と違うなと感じられることはありますか?

 入学して来た段階では普通の学生と何ら変わりません。でも、起業教育を受けていくうちに明らかに違ってくるようです。前にも述べましたが、単に知識を学ぶだけではなく、社会に触れ合い、自分で考えるというプログラムを積み重ねる中で、学生の意識、スタンス、考え方、資質などが明らかに変わってきます。それに伴い、自主性、やる気、行動力も違ってきます。行動することによって何が変わるのかが自分でわかるからです。結果、学生は頼もしく成長しますし、そのプログラムを提供する側としては良かったと誇りに感じています。こういう取り組みを全学的に拡げたいと思うのは本学の一つのビジョンでもあり、今後は知識を提供するだけでなく、モチベーション、やる気といった気持ちの部分をいかに調整していくかに尽きると思います。

起業教育全般について、今後のビジョンや可能性などお聞かせ下さい。

 起業教育そのものというのは、本学が何か取り組んだからといって全国的に一気に盛り上がるものではないと思いますが、
大学、高校を含め、社会に役立つ人物をいかに輩出するかが社会の要請であり、教育機関の使命だと思います。そして一般的な知識、教養はもちろん大事ですが、専門的知識を提供することが大学の基本的な条件でしょう。でも、教養と専門知識を提供するだけで教育が完結するというのもおかしな話で、世の中に出た時に何かアクションを起こせる人物を養成することがとても大事だと思うんです。そのために何が出来るかを我々が考えていくことが、将来的なビジョンです。いかにして実践を取り入れたプログラムを新しく考案できるか、これはもうトライアルですし、やっていかなければなりません。そこで蓄積したノウハウを、例えば高校に移転できる機会があればしていき、更には中学校、小学校と、もっと幅広い形で起業教育を拡げていくことが大学の使命であり、一つのビジョンであり、課題でもあると思います。

これからの若い人たちに向けて、起業の魅力、アドバイスなどありましたら、お聞かせ下さい。

 起業することも会社経営もそうですが、業を起こす時の考え方や哲学はすごく大切になってくると私は思います。ビジネスというのは自分の利益が上がればいいという考えで行うものではないことを、若い方たちにしっかり学んで欲しいです。近江商人の哲学に、「三方良し」という考え方があり、これがビジネスのあり方を端的に表していると思います。自分に良いことは当然ですが、商売をする相手にも利益があり、顧客の満足度を高めることも大事ということです。そして更に、ビジネスそのものが、社会に対しても良いものでなければならないのが基本です。

 世の中を変える力というのは、起業に限らず、組織に属して社会を変えるなど、いろんな形ででき、会社を起こすことだけが全てではないことも熟慮して欲しいと思います。大きくはそういう哲学や倫理観を自分の中でしっかり確立して、世の中に対して何かアクションを起こすよう心掛けて欲しいと強く進言します。

今後の日本の教育のあり方について、望まれることがありますか。

 学生と触れ合っていて必要だと思うのは、主体性を持たせることです。全般的に覇気のなさを今の若者に感じます。
一つには、今の教育が一方的な知識の提供という形にあるからだと思います。学生は、座っていたら何かしてくれる、話してくれるという受け身の形で、自分から学びたいと思わないわけです。興味があり、疑問を感じるわけでもないんです。そういう状況の中で、自主的に行動できる力をつけることが一番大事だと思います。

 フィンランドの起業教育が成功しているといわれています。小学校の段階から自分たちで考えさせる訓練をしているようです。社会の中に決まった答えなんか無いはずですが、わが国では今までは答えがあるという言い方で教えてきたように思います。だから、答えが無いということを教えつつ、自分で考えて探ることを、教育現場のあらゆる段階で実施していくことが必要だと思います。

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● 大阪商業大学 http://ouc.daishodai.ac.jp/

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